「お金持ち倶楽部」のメンバー

「お金持ち倶楽部」のメンバーは、みなさん、そのあたりをわきまえている。

そんなわけで、ぼくたちは、この夏、みんなで一緒に軽井沢へ旅行することにしたのだ。もちろん、お金は、すべてぼくたちが負担する。
ただ、問題は、旅費がどのくらいかかるのかということだった。
そこで、ぼくたち三人は、〈お金持ち倶楽部〉の会合を開いて相談した。その結果、次のように決まったのである。

1)
新幹線に乗って東京から軽井沢まで行く場合の旅費は、往復とも四万円前後
2)
飛行機に乗って大阪から軽井沢まで行く場合は、片道三万五千円
3)
車で長野道を走って軽井沢へ行く場合には、一泊二日で六万円
4)
バスかタクシーを利用して軽井沢に行く場合は、往復ともに三万円で済む
5)
つまり、ぼくたちの夏休みには、合計十二万円の費用がかかることになる
6)
ただし、このうちの一万円と八千円は、ぼくたちの小遣いとして自由に使える
7)
残りの七万円のうち、四万円ずつを〈お金持ち倶楽部〉の資金としてプールし、残り二万円ずつを〈お金持ち倶楽部〉の運営に使う
8)
ぼくたちは、それぞれ二万円ずつを出し合って、この運営費にあてる
9)
宿泊費・交通費などはすべて〈お金持ち倶楽部〉が支払う
10)
そのほかに、食費や雑費などは各自の負担になる
以上が大まかな計画だった。

ちなみに、ぼくが持っている金だけでも、十二万円以上の金額があるはずだ。
だが、これはあくまでもぼく個人の金なので、〈お金持ち倶楽部〉の運営のために使うことはできない。
だから、あと九万円強をどうするかという問題が残る。
そこで、ぼくたちは話し合った結果、次のような結論に達した。
(1)
ひとりが六万円ずつ出し合い、残り二万円を貯金箱に入れる
(2)
もうひとりが、ひとりにつき六万円を出す
(3)
ひとりが二万円ずつ出す
(4)
ふたりが六万円ずつ出す
(5)
ひとりが一万円ずつ出す
(6)
ふたりが二万円ずつ出す
(7)
三人が一万円ずつ出す
(8)
四人が二万円ずつ出す
という具合になった。
つまり、六人だと、一人頭一万五千円という計算だ(もっとも、実際には、もっと少ないだろうけれど……)。

こうして、ぼくたちの夏休みの計画が決まったわけなのだが、問題は、いったい、どんな方法でそれを実行するのかという点にあった。
なにも知らない他人から見ると、「ああ、楽しそうだね」とか「いいねえ」などと羨ましがられるかもしれない。
しかし、そうではないのだ。
実は、けっこう大変だし、面倒くさいことでもあるのだ。

第一に、旅行の計画を立てること自体が大変な作業となる。
これがまず一つ目だ。次に、旅先での宿や食事などの手配もしなければならない。
これも結構厄介なことである。
さらに、旅の途中で事故が起きたり病気になったりしたら、その補償についても考えなければならない。

そして、トラブルが起きれば、解決のための費用を捻出しておかねばならない。
さらには、旅行中に発生した費用は、当然のことながら、すべて自分たちで負担することになる。
こうしたことは、ふつうなら、だれかに頼めばやってもらえることだ。
でも、ぼくたちは、自分たちの力でやってみたかった。
なぜって? それは……。

なぜなら、ぼくたち〈お金持ち倶楽部〉のメンバーは、いままでに一度も、どこかへ遊びに行ったことがなかったからだ! つまり、これまで、一度だって遠出したことがないのである。
ぼくたちが住んでいる市には、遊園地はない。映画館もない。デパートもない。スポーツ競技場もない。本屋さんもない。図書館もない。公園すらない。それに、市役所の中にすら図書室がないのだ。

そんな場所に住んでいる人間にとって、旅行というのは、まさに夢の世界の出来事であった。
いつか行ってみたいと思いつづけてきた世界だったのである。
ところが、そこへチャンスが訪れた。

〈お金持ち倶楽部〉の活動の一環として、夏休みに軽井沢へ旅行するという企画が出たのだ。
これを利用しない手はなかった。だから、ぼくたちは相談したのだった。

話し合いの結果、ぼくたちは、こんなふうに計画を練ったのである。
1)
ぼくたちの夏休みの前半を使って、まず東京から軽井沢まで行き、それから新幹線に乗って大阪へ行き、そこから飛行機に乗る
2)
軽井沢に着いたら、タクシーでホテルまで直行する
3)
翌日は朝から軽井沢観光をして回る
4)
夕方からは、みんなで温泉旅館へ行く
5)
翌朝早く出発し、長野道を走って軽井沢へ行く
6)
帰りは、また新幹線に乗って東京まで帰る
7)
二泊三日の旅行は終わり
8)
翌日からは、それぞれいつもの生活に戻る
といった具合だった。

この計画では、ぼくたちは、交通費と宿泊費をそれぞれ二万円ずつ出すことになっている。つまり、合計八万円だ。このうち、ぼくたちの小遣いとしては、二万円ずつが自由に使えることになる。
そこで、ぼくたちは、さっそく、自分の小遣いを算出することにした。

最初に、それぞれの小遣い額を決めるため、それぞれが自分の貯金箱を開けてみた。
その結果、ぼくの預金は七万円ちょっとあった。
これは、〈お金持ち倶楽部〉で使っているお金と合わせると、ちょうど十二万円くらいになるはずである。
この中に、二万円を入れておけばいいだろう。
つまり、あと八万円だ。

ぼくは、自分の小遣いとして使う二万円を、この八万円から出すことにした。
次に、もうひとりの小遣いを決めなければならなかったが、これには少々困ってしまった。
というのも、このメンバーの中では、ぼくが一番貧乏だったからである。
ぼくは、自分がいちばん貧乏だということを知っている。
なぜかといえば、ぼくは、〈お金持ち倶楽部〉の中で一番年下であり、しかも最年少だったからだ。
〈お金持ち倶楽部〉が結成してから一年半が経つのだが、ぼくはまだ高校二年生なのだ。

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